書架の牢獄

読んだ本について書き記す、読書感想が中心のブログです。推理小説(ミステリ)成分が多め。

二階堂黎人『ラン迷宮 二階堂蘭子探偵集』感想

二階堂黎人『ラン迷宮 二階堂蘭子探偵集』
・収録作品...「泥具根博士の悪夢」、「蘭の家の殺人」、「青い魔物」

・総評...☆☆☆☆★(初心者から玄人まで広くおすすめできる良作)

 

「泥具根博士の悪夢」
<あらすじ>
妻を失い、狂気に目覚めた天才博士・泥具根秋人が、その生涯の最後に超能力者の冬木摩耶子の真贋を見極めようとする。
その最中、能力検証のために用意された四重構造の建築物〈霊応堂〉、その最深部で泥具根博士が殺害された。現場に至るまでの四つの扉は内側から鍵が掛けられており、出入りは不可能。そして、冬木摩耶子は自らの超能力によって博士を殺害したことを告白し......

〈感想〉
施錠された四つの扉+雪の足跡による五重密室状況下での殺人。
小粒ながら複数のトリックを駆使していて、メーントリックは密室物の王道を行く作品でした。ミステリ愛好者のツボをよく抑えていて、古典的な味わいがあります。
私は密室物を読む時、「正確にどうやるかは分からないけど、頑張ればなんとかなるんだな」という感想を抱くことがあり、そういう類のトリックが嫌い(好きな人がいるかは別として)なのですが、この作品はきちんと腑に落ちるタイプのトリックだったので非常に好感が持てました。
密室構築の必要性においては可もなく不可もなくといった感じ(というか、この設定だとこれ以外考えられませんね)。
ただ不可能状況をより一層不可能にするために、思い込みを利用したトリック(〈霊応堂〉内の扉が二種類あることを利用したアレです)を講じるのですが、それが何ともバカっぽい......果たしてその思い込みに引っかかる読者はいるのでしょうか。

 

「蘭の家の殺人」
〈あらすじ〉
探偵業を引退した二階堂蘭子の元へ依頼が舞い込んでくる。依頼主は黎人の妻の友人である伊東香織。依頼内容は、婚約者である賀来慎児を縛る過去の事件、12年前の両親の服毒自殺、の真相を明らかにしてほしいというもの。慎児の反対から、事件は一度蘭子の手から離れるものの、奇しくも解決の機会が巡ってきて......

〈感想〉
クリスティの『五匹の子豚』は読んでいないので、それとの関連性は分からないですが、クイーンの『フォックス家の殺人』とは非常に密接な関係にあります。『フォックス〜』を読んだ人なら、持っていきたい真相はすぐにピンと来るでしょう。
中編ほどのページ数を費やし、賀来家を取り巻く環境を子細に描いていて、飯城勇三の解説にもある通り、トリックだけを抜き出しても成立しない類の作品です。このテーマで作品を書こうとすると、プロットとしての縛りが非常にきつく、新しいものを生み出すのに苦労しそうなものですが、既存の枠組みである第一の事件に新規の第二の事件を付加することによって物語のコクが増しています。
一応密室トリックも登場しますが、そこまでハッとさせられるようなものでもなく、添え物といった程度。ただ添え物であっても抜かりなく伏線を撒いているのは流石といったところです。

 

「青い魔物」

〈あらすじ〉

鎌倉で発生した白人男性の連続死亡事件。新聞で見かけた蘭子はその事件内容に違和感を覚え、事件の解明に乗り出す。警察に話を聞くと、現場では青い肌の怪物が目撃されいた。怪物の正体は一体なんなのか......

〈感想〉

本格というよりかは物語的で、江戸川乱歩の短編のような印象を受けました。当然、怪奇的な事象が論理的・科学的に証明されるわけですが、この話のトピックは犯罪を犯す人間の心理状態にあるでしょう。理性と狂気が混濁した登場人物から犯罪心理を読み取ることができます。故に、犯罪小説としての評価を下すべきであり、蘭子の教訓めいた言葉がそれを象徴しています。

このブログについて

「書架の牢獄」というブログタイトルからお分かりの通り、読書感想を中心としたブログにしていく予定です。基本的には推理小説(ミステリ)を取り扱っていこうと思っています。

備忘録的な意味合いが強いので、読んで面白かったり、何か為になったり、ということは期待できないのでご了承ください。

また、読書感想だけでなく、日常について書いた日記も時々書くことになるかと思います。日記といっても、読書系ブログを目指しているので、何かしら本に纏わる内容にしていきたいです。例えば、「買った本について」であったり、「作家講演会などの参加したイベントについて」であったり。

 

ということで、ブログの方針についてでした。

 

終人